視覚の代行器


オプタコン
optical-to-tactile converterの略といわれるが、現在ではオプタコン(optacon)という商品名で市販されている盲人用文字読取装置として有名である。そもそもは、スタンフォード大学のLinvillとBlissらによって研究開発された機器であるが、それを米国TSI社で市販する製品になった。日本では株式会社キャノンが販売を担当している。我が国でも数百台普及している。
この装置は、使用者が印刷物の文字部を捜査して光電変換する小型のイメージセンサ系と触覚ディスプレイや振動の強さ・濃淡情報の閾値調整ツマミのついた制御部が主構成要素である。触覚ディスプレイは、初期の製品では6列24本の圧電型の振動子で構成され指先にぴったりと収まるサイズであった。現在の改良版では振動子の本数が若干少なくなっているが、機能は向上している。
触覚ディスプレイには文字型に相当する部分が振動で表示されるので、使用者は振動パターンの特質から何という文字であるかを識別する。したがって、英数字なら比較的分かりやすいが複雑な字体の場合には判別が難しい。OCRや音声合成技術が進歩してきた現在では、文章読み機能においては合成音の出る盲人用読書器の方が誰にも使われやすい。

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視―触覚変換器
1960年代に米国のSmith-Kettlewell研究所で研究されたものTVSS(Tactile Vision Substitution System)が有名である。この装置は外界情報をテレビカメラで撮像し、濃淡信号に変換した情報を歯科医用の椅子の背もたれに搭載された縦20列、横20行の電磁ソレノイドの振動の強弱を提示する触覚ディスプレイに投影する。
我が国では1970年代に入って製品科学研究所(現、生命工学工業技術研究所)で半導体イメージセンサを視覚入力とし、車椅子の背もたれに空気圧ピストンで駆動する触ピンを配列した触覚ディスプレイが搭載されたシステムが開発された。図はこの装置の外観を示す。

視―触覚変換器

この触覚ディスプレイ部の主要な仕様
触覚ディスプレイの大きさ315mm x 315mm
触知ピンの駆動機構空気圧ピストン
触知ピンの本数17 x 17
触知ピンの間隔16 mm
触知ピンの形状直径1.8mm(円形)
触知ピンのストローク最高5mm
触知ピン駆動周波数 約2.5pps
ディスプレイの特徴ダイナミック型、極めて強力なピン圧、背中部で使用

こうした装置は大型であり、かつ、伝達できる情報はあまり多くはないため、現在では殆ど使われていないが、触覚伝達の可能性を世に示したという意義は極めて大きい。

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触覚テレビ
原理的には視―触覚変換器と同様であるが、前者が目と同じように外界の情報を見ることを目的としていたのに対して、これは、盲人が手触りによってTV画面の内容を知ろうとした装置である。TV画面を小型の振動子マトリックスに置き換え、そこに映像信号の濃淡をパラメータにする触覚情報を提示する。使用者は触覚画面に対して指先を動かし、振動の強度や周波数の相違による触刺激に変換された視覚画像を認知する。図はこのような目的から組まれたソレノイドによる触覚ディスプレイを示す。

ソレノイド型触覚TVディスプレイ部の例

これを圧電素子にすることもある。下図は製品科学研究所で試作された圧電型触振動子を配列した触覚TV用のディスプレイ部である。

触覚ディスプレイ部の主要な仕様
触覚ディスプレイの大きさ120mm x 120mm
触知ピンの駆動機構ソレノイド
触知ピンの本数10 x 10
触知ピンの間隔10 mm
触知ピンの形状円形(直径2mm)
触知ピンのストローク約1mm
触知ピン駆動周波数最高60pps
ディスプレイの特徴ダイナミック型 、指先走査
この触覚ディスプレイ部の主要な仕様
触覚ディスプレイの大きさ160mm x 200mm
触知ピンの駆動機構圧電素子(PZT)
触知ピンの本数14 x 24
触知ピンの間隔2 mm
触知ピンの形状 円形(直径0.7 mm)
触知ピンのストローク 約160マイクロm
触知ピン駆動周波数最高230 pps
ディスプレイの特徴ダイナミック型 、指先走査

残念ながら、こうした原理でTVの視覚画面を触覚的に伝達することは成功していない。それは、人間の感覚間にはそれぞれ特殊性と共通性が存在し、触覚特性が視覚や聴覚の特性と同一とは言い切れないためである。
現在有効なのは、映像情報をこうした触覚ディスプレイに提示するのではなく、画面の特別な情報を単純に指摘する場合である。たとえば、パソコン画面のカーソル位置を触振動子で振動させて、画面上の検索の手がかりにするものである。

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触覚マウス
パソコンの普及と共に必要になってきた考え方である。すなわち、パソコン画面のカーソルやグラフィックを触覚的に認知するために必要である。その考え方の1つは前出のように、固定型のもので手の平に画面全体を投影する。カーソルなど画面の絶対位置情報が必要な場合のディスプレイとして有効である。
もう1つは移動型のもので、これにクリックやドローなどマウス機能を一緒に搭載したものを触覚マウスと呼ぶ。したがって、触覚マウスにはマウスボタンの他に、主要部である触覚ディスプレイが加わっている。マウスが可動型であるゆえに、触覚ディスプレイ部も小型かつ軽量でなければならない。とくに、画面のグラフィック情報を認知するには触振動子が1本では不足である。図は茨城大学の佐々木が試作した触覚マウスの外観と構造を示す。

触覚マウス

触覚マウスの外観

この触覚ディスプレイ部の主要な仕様
触覚ディスプレイの大きさ25mm x 20mm
触知ピンの駆動機構圧電素子(PZT)
触知ピンの本数(2 x 8)ユニットを横4列配置
触知ピンの間隔ユニット当たり約2.5 mm
触知ピンの形状円形(直径約0.8 mm)
触知ピンのストローク約200マイクロm
触知ピン駆動周波数最高200pps
ディスプレイの特徴スタティック型、2指固定使用

この触覚マウスで画面探索を行い、画面のグラフィックにぶつかると2本指で触る圧電型触振動子が濃淡に応じて振動する。こうした方式は単純な線図形を触覚で認知する場合には有効であることが確かめられている。

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2次元型パターン情報提示装置
視覚代行のうち読書機能については音声合成とOCR技術の進歩によって、触覚よりも認知しやすい表現によって代行伝達することが可能になってきた。しかし、図、表、グラフィックなどの画像情報は音声化し難く、また、音声伝達するよりも空間的特徴が表現できる触覚イメージで伝達する方が得策である。
そのためには触知ピンを何本も配列したマトリックス状の触覚ディスプレイがいくつも考案されてきた。すなわち、凹凸信号を発生するディスプレイである。これらの試作機は伝達しようとするパターンを輪郭線図形で表現するために、触知ピンを一定高さ(約2mm程度)上昇させる。触覚ディスプレイに提示する情報はパソコンなどの画像イメージであり、触知ピンの上昇には殆どがコンピュータ制御される。
一方、ピン駆動には小型ソレノイド圧電型素子が用いられる。何分にも複数の触知ピンを配列し、それらを一様に制御しなければ実用とならないこのうち、神奈川大学のソレノイド16x16要素をアクチュエータにする触覚ディスプレイは安定動作するが、ピン間隔が粗いこと、高価なこと、ソレノイド素子を何本も動かすため消費電力などに問題を残す。圧電素子を用いたものにシュツットガルト大学のものがある。これは盲人が現代のGUIインタフェースのパソコンにもアクセスできることを目的として、キーボードの他に、点字やカーソル位置情報を提示する目的で試作されたものである。

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3次元型パターン情報提示装置BR> 2次元型パターン情報提示装置と同様に凹凸信号を発生する触覚ディスプレイであるが、前者が主として輪郭線パターンを表現することを目的としているのに対して、この装置は凹凸をもったソリッドイメージ、すなわち、レリーフ像を表現できるようになっている。なにゆえこのようなディスプレイかというと、2次元型よりも立体表現が可能ということで極めて分かりやす情報を提示できることによる。図はこうした用途のために初めて製品科学研究(現、生命工学工業技術研究所)で開発された装置を示す。

旧型凹凸ディスプレイ

この触覚ディスプレイ部の主要な仕様
触覚ディスプレイの大きさ180mm x 180mm
触知ピンの駆動機構ステッピングモータ
触知ピンの本数16 x 16
触知ピンの間隔10 mm
触知ピンの形状8mm(角形)
触知ピンのストローク最大30 mm
触知ピン表示レベル300段階
提示時間5秒 / 画像
ディスプレイの特徴スタティック型、指先・手の平で走査

問題となるのは、ハプティック知覚において線や曲面の連続感を保つためにいかに触知ピンを高密度で実装するかという点である。通産省の医療福祉機器技術研究開発制度による「盲人用三次元情報提示装置」プロジェクトではこうした問題点を解決するための研究に取り組み、回転駆動素子の開発を行って、3次元情報提示装置を完成させた。図は試作された装置の外観と構造を示す。

3次元ディスプレイの外観

3次元ディスプレイの構造

この触覚ディスプレイ部の主要な仕様
触覚ディスプレイの大きさ200mm x 170mm
触知ピンの駆動機構ステッピングモータ
触知ピンの本数64 x 64
触知ピンの間隔3 mm
触知ピンのストローク最大10 mm
触知ピン表示レベル100段階
触知ピンの形状円型(2.5mm)
表示完成時間15秒/画像
ディスプレイの特徴スタティック型、指先・手の平で走査

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歩行支援装置
歩行支援は障害物情報を警報として伝達する型と、さらに進めて環境情報を提示して歩行誘導を行う型とがある。警報や環境情報検出のためには超音波やレーザ光、また最近ではGPSなどが使われる。情報提示系としてのインタフェース部については、歩行のためには小型かつ携帯ということが前提となるため、多くは音響的信号を表示する。しかし、ここで指摘したいのは、こうした装置のインタフェースとしての触覚ディスプレイである。
触覚提示は環境騒音にも耐えるし確実に信号を提示できる反面、電磁型ではエネルギー消費が高いため複数素子で構成されるものは得策ではない。それゆえ素子1個で警報の有無を伝える。現在、携帯電話のコール音を振動で伝達するのと同様である。
環境情報提示では、試作の域に留まるが電極アレイを用いたものがある。図は製品科学研究所(現、生命工学工業技術研究所)で開発された装置の外観を示す。電極アレイは腹部に装着する。

環境認知型歩行支援装置

この触覚ディスプレイ部の主要な仕様
触覚ディスプレイの大きさ220mm x 230mm
電極の駆動機構コンデンサ放電
電極の個数20 x 20
電極の大きさ 同心円:7mm(外形), 4mm(内径)
電極の間隔10 mm
瞬時提示電圧約80V
電極駆動周波数最高150 pps
ディスプレイの特徴ダイナミック型、腹部装着

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ペーパーレスブレイル
盲人の伝達の世界では古くから点字(Braille)が利用されている。これを支援するため点字テンプレートや点字タイプライタなどの入力装置が、また、出力装置には点字プリンタが作られてきた。また、現在ではコンピュータシステムを中核として、点字コード変換に注目した点字情報編集複製装置なども出現している。
これらは用紙に紙に打点された点字をメディア、すなわちパーマネントの媒体を扱うことを目的にしている。一方、盲人がパソコンなど情報処理装置や情報提供端末に接することを支援するため、紙を必要としない点字表示装置の必要性が高まってきた。いわゆるペーパーレスブレイルである。これを実現するためには、6点ないしは拡張された8点をユニットとした触知用の点字セルが必要である。図はKGS社の製品の外観を示す。点字位置のアクチェーションには圧電型素子を組み合わせている。

ペーパーレスブレイルの外観

盲人用情報処理機器の点字端末には、こうした構造をもつペーパーレスブレイルがよく使われている。

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触図作成装置
理科教材や地図など空間情報の提示には触図が必要となる。この目的にはレーズライタ(フィルムをボールペンの先などで変形を起こす器具)が古くから使われてきた。しかし、大量に触図を複製することが必要になると、最近の情報技術が必要になる。こうした情報技術で注目するのは、コンピュータによる触図の生成・編集方法と触図の用紙への成形方法である。触覚ディスプレイという視点からは、後者に注目したい。
図は製品科学研究所(現、生命工学工業技術研究所)で試作された点字プリンタ装置を示す。フラットベッド型プロッタを使用し、ペン駆動機構を強力にして打点部を構成している。この他にも、触図の成形には立体コピー機や材料を化学処理する方法などもある。

触図作成装置の外観

しかし、こうして作成された触図はペーパーレスブレイルのように、オンラインで情報を表現するものではないこと、しかも、ハードコピーであり同じ媒体を繰り返し利用するものではない。

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